大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高知地方裁判所 昭和24年(ワ)4号 判決

原告

佐井猛夫

被告

窪川町農地委員会

主文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は全部原告の負担とする。

請求の趣旨

被告が別紙目録記載の農地につき昭和二十三年一月定めた買收計画並に同年六月定めた売渡計画はいづれも無効であることを確認する。

事実

被告は別紙目録記載の農地につき昭和二十三年一月買收計画を、同年六月売渡計画をそれぞれ定めた。しかしこの農地は原告の所有で訴外藤沢幾馬に賃貸してあつたが昭和二十年十二月同訴外人との間に返地の合意が成立し且つ原告は昭和二十二年度の稻作からその引渡を受けてこれを自作中であり、しかも昭和二十三年七月頃窪川簡易裁判所でこの返地契約の確認竝にこの農地の引渡につき原告勝訴の判決を得たものである。從つて自作農創設特別措置法第六條の二第二項第一号により適法且つ正当な賃貸借の解約のあつた小作地として本件農地はその買收計画を定めることができないものである。然るに被告が前記のようにこれにつき買收計画竝に売渡計画を定めたのは右法規に違背し当然無効の行政処分である。そこで原告はその無効の確認を求めるため本訴に及んだものであると述べ、

被告の抗弁に対し原告は被告のなした行政処分の無効確認を求めるものであるから処分の主体である被告を相手とするは当然のことであると述べた。

(立証省略)

被告指定代理人は主文第一、二項と同旨の判決を求め、原告主張事実に対し被告が本件農地につき原告主張のような買收売渡計画を定めたこと及び訴外藤沢幾馬がこの農地を賃借し耕作していたことは認めるがその余の事実は爭う。本件買收計画は自作農創設特別措置法第六條の二の規定に基く遡及買收ではない。被告が買收計画を定めた昭和二十三年一月当時は右訴外人がこの農地を賃借し耕作していたし且つ原告がこれより先昭和二十二年中に知事に右賃貸借の解約許可を申請したのに対し知事が既に不許可処分をしたので被告はこの農地を同法第三條第一項第二号の保有面積を超過する小作地として買收したものである。而して原告はこの買收計画に対し異議訴願を提起せずこの計画が適法に確定したので知事は買收令書を発行し昭和二十三年十月一日これを原告に交付した、從つて本件農地の所有権は右令書記載の買收の時期である同年二月二日に既に政府に移転したものである、そこで原告の右買收計画の無効確認を求める本訴請求は国を被告とすべきであるが本訴は窪川町農地委員会を被告とするものであるから不適法として棄却さるべきものである。なお仮りに原告主張の返地の合意があつたとしても原告はその後現実に農地の引渡を受けていないから本件買收計画等に違法はないと述べた。

(立証省略)

理由

本訴は被告窪川町農地地員会が定めた自作農創設特別措置法に基く農地の買收並に売渡計画という行政処分を法律上当然無効であるとしてその無効確認を求める訴である。職権を以て按ずるにかような行政処分の無効確認を求める訴は本來国を被告とすべきものである。しかしながらこのことから直ちにその処分をした行政庁は被告としての適格を全く有しないものと断ずべきではない。国の行政機関が行つた行政処分の効力を爭う訴訟において当該訴訟の目的である行政処分が取消又は変更され或はその無効であることが確定されることにより、実質上権利義務に影響を受けるものは被告が行政庁である場合も結局は当該行政権の主体である国である。從つて行政庁が被告として訴訟に直接当面する場合もその背後には常に国が控えていて国が実質上の被告であることに変りがない。してみれば本件において買收並に売渡計画を現実に定めた行政庁である窪川町農地地員会に対し被告としての適格を認めることは必ずしも許されないところでない。從つて同委員会を被告とする本訴はあえてこれを不適法というべき限りでないといわねばならない。

そこで進んで請求の当否につき判断する。訴外藤沢幾馬が本件農地を原告から賃借し耕作していたこと及びこの農地につき被告が昭和二十三年一月買收計画、同年六月売渡計画をそれぞれ定めたことは当事者間に爭がない。而して成立に爭のない甲第一号証及び証人佐井眞一の証言を綜合すると原告と右訴外人間に昭和二十年十二月右賃貸借を解約し本件農地を原告に返還する旨の契約が成立したこと並にその後窪川簡易裁判所でこの返地契約を確認した判決があつたことが認められる。

ところで原告主張のように原告が昭和二十二年度に現実にこの農地の引渡を受けそれ以來自作中であることを認めるに足る証拠は何もない。そこで結局原告の主張は、被告は右の返地契約を看過して本件買收並に売渡計画を定めたものであるというに帰する。しかしながら、たとえこの誤認の事実があつたとしても、かような誤認は買收並に売渡計画の取消の事由としてはともかく未だそれがためその計画が法律上当然無効となるような性質のものではないと考うべきものである。

そこで被告の定めた買收並に売渡計画の無効の確認を求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(目録省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例